プロカメラマンの秘密を探る⑧~ドラマ性

風景だけの写真だとドラマ性は感じにくいが、そこに人が加わるといきなりドラマ性が大きく出てくるものだ。その人がその場所に居るのは何故なんだろう。そこに着いたばかりなんだろうか、或いはそこから帰ろうととしているのだろうかといろいろな考えが浮かぶ。 そこで構図が素晴らしいこの一枚の写真。背景は大きく広がる青空に白い雲。どこかの土手を男女が逆方向に向かって歩いている。おそらくは、全くの赤の他人の二人が、たまたま歩いて来てただすれ違っただけなんだろう。それとも、二人はここで暫く話し合った後、それぞれの方向に向かって歩き始めたのだろうか。シンプルな構図の中に何とも言えないドラマ性を感じる。 もし、二人の状況が前者なら話はあまり広がらない。もし、後者なら話はいくらでも広がってくる。私は、この写真を見たとき、レコードのジャケットに使えると思った。この写真をもとにしたドラマを考えてそれを題材にした曲を作ってもいい。そう、このジャケットではとびっきり明るい曲にはならない。やはり少し寂しげな人恋しいものになるだろう。 季節はいつだろう。土手の草の色は黄色に染まっているので晩秋から冬にかけてかと思いきや、男性が半袖であるところを見るとそうではなさそうだ。女性の服装も冬を控えてのものとは思えない軽装である。そこで出す結論はこうだ。暫く寒い日が続いたあとの秋の一日だが、その日は日焼けした男性が一旦仕舞った半袖を取り出すほど暖かい”インディアンサマー”の日だったのではないか。 若い日、入社したての頃、フォークバンドを組んでいたことがある。ジョーン・バエズ、PPM、ブラザーズ・フォー、キングストン・トリオ・・・。ある廃城の大きな石垣をバックに、4人がそれぞれ少し離れて撮った写真がある。いつか書くであろう曲のレコードのジャケットにするつもりだった。そう、あの頃もひとつのドラマだったのかもしれない。そんなことを思い出させてくれる一枚ではある。 同じ写真を見ても人それぞれの感受性によって受け止め方が違う。しかし、見ても何も感じない写真も数多あるのは事実だ。何が違うのだろう。プロカメラマンは、何を思いながらシャッターを切るのだろう。おそらく彼らは、他人がどう受け止めるのかは全く意識していないと思う。ただ、ひたすら自分の感性を研ぎ澄まして、その瞬間を捉えるだけなのではないか。そしてその結果、他人に感動を与える一枚を生み出すことになるのではと思っている。 この記事の内容は、野村さんから伺った話ではなく、全て写真を見て私個人が感じた感想です。(八咫烏) ~つづく~ (八咫烏)

プロカメラマンの秘密を探る⑦~マジックアワー

プロカメラマン野村成次さんが講演会の冒頭の挨拶でこう仰った。「歳をとると朝早く目が覚めるというのは残念ながら本当の話で、私は、夜一杯飲んで寝ると朝3時頃には目が覚めてしまいます。仕方がないのでカメラを持って出かけることになりますが、徒歩か自転車なのでせいぜい家から2キロほどの距離の範囲です。」 夜が明ける前から出かけるのは、はたして目が覚めてしまって仕方がないからだろうか?私は、半分は、若さを失ったことを嘆きつつも、半分は、誰にも邪魔されることなく好きな時間に出かけられることに喜びを感じているのではないかと思っている。「仕方ないから」という言葉の裏に、むしろそのことを楽しんでいるように思えてならない。何故なら、「マジックアワー」に出会えるからである。 カメラの世界では、「マジックアワー」という言葉が使われることがある。あたり一面真っ暗な闇の世界から一条の光と共に夜が明け、多くの生き物が活発に活動した後、再び闇の世界に戻っていく。この一日24時間の自然界の変化の中で、ある一つの情景がほんの短時間ではあるが普通では見ることのできない特別な姿を見せることがある。その時間は夜明け時であっても夕暮れ時であっても、せいぜい15分か20分くらいのものでそれほど長い時間ではない。 この一枚の写真は、年末近くに撮った調布の上河原堤である。堰き止められた多摩川の水が下流に向かって流れ落ちるしぶきに朝焼けが映ってピンク色に染まっている。朝焼けの写真はどこにでもたくさんあるが、この堰に反射することでこのように見える瞬間を多くの人は知らない。ある瞬間にある角度からのみ見える情景であり、これもマジックアワーのひとつである。 野村さんがこの場所のこのマジックアワーを知っていて撮影したのか、偶然このマジックアワーに遭遇したのかは詳しくお聞きしていない。しかし、一日にたった15分か20分程しかない瞬間を捉えていることを考えると知らなかったとはとても思えない。きっと、何度も通っている間に発見してよく知っている場所なのだと思う。 それにしても、こんな写真を撮るのはやはり素人には難しい。野村成次というカメラマンの魅力にますます魅かれていく。 (八咫烏)