荻悦子詩集「時の娘」より「空・旅」
空・旅 時雨去ったあと にわかに昏く 流れは オリーブ色にして蛇行して 後へ後へと尾をひく 墨を流した雲の波間に まだらに 地球の黎明期の 怪しい冷たい光 城 仄白く浮かびあがった と見る間に 暗い森の草木のざわめき 洞窟の 始源の水を分けて 背に羽根のある 幼い人形を 舳先に彫りつけた カヌー一艘 艫に立つ 薄い長衣の女は 額に枯れた花を巻きつけ 手をかざし 水に浮いた瞬間 自らは変えることのできない 旅の速度で 仄昏い空に導びかれ 闇の海に雪崩れおちる 荻悦子(おぎ・えつこ) 1948年、新宮市熊野川町生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了。作品集に『時の娘』(七月堂/1983年)、『前夜祭』(林道舎/1986年)、『迷彩』(花神社/1990年)、『流体』(思潮社/1997年)、『影と水音』(思潮社/2012年)、横浜詩人会賞選考委員(2012年、16年)、現在、日本現代詩人会、日本詩人クラブ、横浜詩人会会員。三田文学会会員。神奈川県在住。