シンゴ旅日記インド編(その37-2)我輩は牛でんねん 密教の巻(下)

そして最澄さんと空海さんが800年過ぎに同じ船で中国に留学しはりましたがな。 そんで二人とも当時中国で流行っていた、密教を持って来ましたんやがな。 最澄さんはエリートで、空海さんは奨学生みないでしたんやて。 その二人を中心に国がお寺を立てたりして流行らしたんですな。 そやさかい平安時代は密教が主流を占めたんでっせ。 エッ、最澄の『天台宗』と空海の『真言宗』はどう違うのかって。 『東蜜』と『台蜜』って知ってまっか? エッ、東京の蜂蜜と台湾の蜂蜜かってですか? ちゃいまんがな。あんさん、農水産関係の人でっか? 真言宗の根本道場であった東寺の密教と天台宗の密教との略でんがな。日本人は何でも略すのが好きでんな。 最近では『イケメン』じゃのうて『イクメン』ちゅう言葉があるらしいでんな。育児する男ちゅう意味ですって。我輩はもう何やよう分からへんわ。話を戻しますわ。 『真言宗』は密教だけ教えとったけど、『天台宗』では密教の他にも顕教も教えましたんや。 言うたら『真言密教専門大学』と『天台総合大学密教学科』ちゅうもんやね。 比叡山の最澄さんな、エリートやったからお金もあったんで中国で密教も勉強しはったんやけど、顕教のお経もドッサリ買って来たんですわ。 帰りの船の中でお経をネズミに食われんように猫を放し飼いにしてたそうでっせ。 そやけど最澄さんな、帰って来ても公務が忙しくてお経を訳す暇がなかったんですわ。 そやさかい、お弟子さんたちが山と積まれたお経の中から勝手に封を切って自分で勉強していろんな解釈をしはったんですわ。 当時の坊さんは頭のエエ人ばっかりやったからいろんな解釈を考えはったんですな。 そんで総合大学の比叡山からは法然さん、親鸞さん、日蓮さん、栄西さんなんかが出ていろんな宗派を興しはったんですわ。浄土宗、浄土真宗、日蓮宗、曹洞宗などでんな。 密教を学んだ人たちが密教を否定して行ったんでんな。 それらは密教の難しい儀式せんでも、『南無阿弥陀仏』とか『南無妙法蓮華経』を唱えればそんでもって救われるちゅうモンですがな。 仏教いうたら本尊ゆうて仏像がありますやろ、顕教にも密教にもそれぞれありますんやで。 代表的なんが顕教は『毘瑠遮那仏』『阿弥陀如来』で密教が『大日如来』ですわ。 『毘瑠遮那仏』はあの東大寺の仏像さんですわな。あれはお釈迦さんとちゃいまっせ。 真理を説くために説法するぎょうさんの仏さんを自分の毛穴から放射するんですわ。その中の一人がお釈迦さんでんがな。 『阿弥陀如来』は浄土宗、浄土真宗のでいう西方浄土の阿弥陀さんでんがな。 密教の『大日如来』は難しい言葉で説教するさかいそれを理解するために特別な秘密の修行や、加持祈祷が必要やちゅうわけですわ。 吸う息で仏さんが自分の心に入り、吐く息で自分の心が仏さんの世界に飛び込むちゅうんでっせ。これってインドのヨガの一種でんな。 そんな密教やけど、人間の持つ煩悩や愛欲は積極的に肯定してまんのやで。 そこがちょっと煩悩を断ち切って瞑想する禅宗と違うとこでっしゃろか。 でもね、『毘瑠遮那仏』も『大日如来』も元は同じ仏さんなんでっせ。 サンスクリット語で『マハー・ヴァイローチャナ・ブッダ』って言いますんや。 マハーは大ですな、ヴァイローチャナは陰日向なく光りを照らすものちゅう意味ですわ。 ブッダは悟れる人ちゅうことですわな。 そやから、音訳すると『摩訶毘瑠遮那仏』で、そして意訳すると『大日如来』になるんですわ。 如来の意味は『真理から来る者』ちゅうことでいわゆる悟りはった最上段の仏さんですわな。 仏さんはいろんなグループがありますんや。如来さんの他にも菩薩さんちゅうのがありますやろ。これは、極楽社会から派遣されて如来さんになろうと努力している仏さんでんな。 今で言うと正社員の如来になろうと一生懸命努力してはる契約社員の仏さんのことでんな。 梵天とか帝釈天とかのバラモン教から仏教に転職した天部ちゅうグループや、悟っても仏になれん派遣社員の羅漢グループもありますんや。密教が連れてきたんは同じくバラモン教やヒンズー教からの転職した明王グループでんな。その中では大日如来の化身の不動明王や、愛染明王、孔雀明王が有名でんがな。明王さんがみんな武器を持った形で表してるんは菩薩さんの説教では言うこときかん人を強引に従わせたり、教えを妨げる悪をやっつけるためでっせ。でも孔雀明王と六字明王さんは菩薩さんみたいに穏やかな顔をしてまんのやで。 そや、あんさん、マントラを覚えときなはれ。密教の真言でっせ。 菩薩さんや如来さんとチャネリングするキーワードでっせ。 釈迦如来は『ノウマク・サマンダ・ボダナン・バク』。 大日如来は『オン・アビラウンケン・バザラトバン』でっせ 他の如来さんにもそれぞれのマントラがありますんや。 生まれ年の守護仏として、それぞれの如来さんがおってマントラも違うんですわ。 たとえば丑・寅年生まれは虚空蔵菩薩でっせ。 そのマントラは『ノウボウ・アカーシャキャリバヤ・オン・アリキャ・マリボリ・ソワカ』でっせ。 エッ、弁財天でっか?えーっと、『オン・ソラソバ・テイエイ・ソワカ』ですわ。 そしてこれらのマントラは病気を直すヒーリングにも使われまっせ。 でもね、意味を知って唱えんと、ご利益はありませんで。 エッ、あんさん、これからサンスクリット語の勉強を始めることにするってですか? えらい目的がはっきりしてまんな。エッ、他の生まれ年のマントラは何て言うのかってですか? アカン、アカン、我輩はこれからワインの会(*注)の寄り合いに行かなあきませんねん。 ここでお別れしますわ。サイナラ。(日本てややこしいな、今の日本には仏教は大体13宗56派あるちゅうやないですか?お釈迦さんや比叡山の坊さんたちは葬式でお経上げてへんかったのにいつからやろか、坊さんが葬式にお経を上げるようになったんは。) *注 「ワインの会」とは「和イン=和牛とインドの牛の食事会」のことです。吾輩は和牛である父親とインド牛である母親から生まれたハーフであるためです。 丹羽 慎吾

シンゴ旅日記インド編(その37-1)我輩は牛でんねん 密教の巻(上)

あんさん、インドに来て、もう一年近く経ちますやろ。インド料理は慣れましたか? エッ、インド料理は辛い料理ばっかやと思っていたが、そうでもないことが分かったってですか。 そりゃ、毎日辛いモンばっかり食べてましたら、いくらインド人でもお腹を壊しまっせ。 日本で食べモンの話しと言えば、信長さんが京都に入った時の話を知ってまっか? 天下の信長様に京都の料理を召し上がってもらおうと、名人と言われる人に料理を作らせて差し上げたんやて。 けどな、それに箸をつけはった信長さんが直ぐに怒って言うたんやて。 『なんじゃ、これは!?おミャー、こんなモンが、食えるか!たわけー!』 主人は慌てて料理人を呼びつけたんやけど、その料理人が自信を持って言うたんやて。 『ちょっと待っておくれやす、明日には信長はんが絶対に美味しいちゅう料理を作ってみせますよってに』 そしたら信長さんが『デアルカ、そんなら作って見てチョー、でもな、不味ければ、殺してしまうぞ、料理人!?』って許しはったんやて。 次の日に持って来られた料理を食べた信長さんは、えろう満足して 『こリャー、どエリャー、うまーギャー、たまらんでイカンワー。お代わりをチョー。』 と言って何杯も美味しそうに食べ、料理人に褒美をつかわしたとか。 誰かが後でその料理人に聞いたそうですわ。『どうしてあんなにも信長さんが喜んだのか』 料理人は答えたそうですわ。『信長はんは、味噌煮込みの尾張の人やし、あちこち走ってはるお侍はんでっしゃろ、そんで味を濃くしただけどす』 信長さんの舌が京都の公家さんの薄味とは合わんかったちゅう訳でんな。 そやけど、京都の人って天下人の信長さんを田舎モン扱いしたんですな。 エッ、そんな信長の話とインドと関係があるのかってですか? そりゃおまんがな。 信長さんは比叡山の坊さんを皆殺しにしましたがな。 比叡山ゆうたら、サイヒエンテンでんがな。 何やそれはってですか? 最澄の比叡山の延暦寺の天台宗でんがな。 天台宗ちゅうたら、真言宗とならんで密教でんがな。 密教いうたらインドのバラモン教ですわ。 そんで信長さんとインドの関係が繋がりましたな。 言うたら『風が吹いたら桶屋が儲かる』ちゅう話と同じ理屈でんな。 エツ、密教って何やてですか?   お釈迦さんはキリストさんやマホメットさんと同じように自分で書かはったモンがおませんのや。 お弟子さんにお話でいろんなことを聞かせたんですわ。 そんで、そのお弟子さんたちが後で先生はこう言わはった、ああ言わはった、それはこう言う意味や、ああ言う意味やちゅうてお釈迦さんの言葉をそれぞれがお経に書きましたんや。 そんで、お経に書いてある普通の仏教を『顕教』って呼ぶんでっせ。 『密教』ちゅうのはお経もあるんやけど主に呪文や儀式を師から弟子に口頭で伝授していくんですがな。 エッ、そうやけど密教とバラモン教とはどんな関係にあるんやってですか? まず、仏教はお釈迦さんが輪廻からの解脱を求めたんが始めでんがな。 そんで、仏教が上座と大乗に分かれたんのは知ってますやろ。 仏陀ちゅうのは悟った人ちゅう意味ですやろ。 仏陀=お釈迦さんやちゅうて、お釈迦さんと同じ修行せな解脱でけへんちゅうのが南回りの上座仏教ですやろ。スリランカやタイの仏教ですがな。 そうやなくて、仏陀はお釈迦さんだけや無い。仏陀=真理やちゅうてお釈迦さんを含む大勢の仏さんが苦しみから助けてくれるちゅうのが北回りで日本に入って来た大乗仏教でんがな。 お釈迦さんは如来さんや菩薩さんと同じ仲間で、真理を追究した人やちゅうのでんがな。 そやからお釈迦さんを『釈迦如来』とも呼びますやろ。 そやけど、よう考えてみたら南回りの仏教は輪廻からの解脱を求め、北回りは苦しみからの救済を行うんですな。キリスト教も救済が目的ですわな、北回り仏教はインドの北の方でキリスト教の影響を受けたんとちゃいますやろか。 アッ、そやそや密教でしたな。 密教も中国経由してますから、結局大乗仏教の仲間ですねん。 そもそも密教の呪文ちゅうか、真言ちゅうか、マントラを唱えて病気を治すとか、災いを無くすちゅうんは仏教の興る何百年も前のバラモン教にあったんでっせ。 お釈迦さんはそんなんはアカン、認めんちゅうて言わはったんですわ。 けど、お釈迦さんが亡くなりはって、何百年か経つとな、人間ちゅうもんはどうしても目の前のご利益を求めるもんでんがな。 仏教にもこの呪文を唱えるノンが多く入ってきて密教化したんすわ。 そしてヒンズー教にも取り込まれて行ってもたちゅう訳ですわ。 あんさん、大体やね、日本に最初に仏像が入って来たんは500年代の半ばでっしゃろ。 仏教派の蘇我氏と日本の神さん派の物部氏の争いで蘇我氏が勝ちはったやろ。 蘇我氏グループの聖徳太子さんが遣唐使を派遣しはったり、法隆寺、四天王寺とかお寺を立てはったでっしゃろ。 8世紀の奈良時代の仏教は南都六宗いうて中国からのそのまんまの宗派でしたがな。 そやから華厳宗は東大寺を、法相宗は興福寺を、律宗は唐招提寺を本山としましたがな。 東大寺の大仏開眼の直後に中国から鑑真さんに来てもらって坊さんの資格制度を作りなさったんやね。坊さんを国家公務員にして仏教を広めたんですわ。 でも不思議やね、神道の天皇さんたちが仏教を奨励するってのは。 日本では仏教が政治のために使われてもうて、お釈迦さんの解脱とは関係ない方向に行ってましたんやね。 本編(下)に続く 丹羽 慎吾